◼️「いつかどこかの、夢の終わりに」クリア後話
◼️シナリオのネタバレをほんのり含む
◼️BL
□登場
ベルンハルト
標準型 大人♂️ リーダー兼聖職者
一人称:私 二人称:君 男性(大人)口調
冷静沈着で勤勉な聖職者(異端審問官)。
_片思われ
ヒースクリフ
万能型 大人♂️ 盗賊
一人称:私 二人称:貴方 丁寧口調
ひねくれ者で遊び人の盗賊(悪役)。
「つがいの窓」「虚に揺蕩う」経由。
リューンの空は高い。
教会の前で晴れた空を見上げている司祭服(キャソック)姿の男は思慮深そうな黒い目と夜のように落ち着いた黒髪で、服装と相俟ってどこか侵しがたく清廉な何かに見える。……名を、ベルンハルトという。見目の通り司祭ではあるが冒険者と兼業しており、その行動力や意思の強さを買われて異端審問官を任じられてもいた。
こうして教会の前で箒を持って空を見上げている彼がこのリューンにおいて──あるいは大陸において──有数の実力を誇る冒険者であるだなんて、誰が思うだろう。しばらくしてから視線を下ろしたベルンハルトは、通りの向こうからこちらへ向かって歩いてくる男の姿をみとめて目を細めた。
「どうした、教会に来るなんて珍しいな」
ベルンハルトは来訪者をからかうように笑い、来訪者もまた表情をやわらげる。すらりとした痩身の男だ。ベルンハルトを見る眼差しは優しげだが、片目が不思議なきらめきを帯びている。
「これ、差し入れです」
男が差し出してきたのはバスケット。中を確認すると、分厚いハムの挟まれたサンドイッチが詰められている。
「美味そうだな、ありがとう。君も一緒にどうだ」
「そう言ってくれると思ってまだお昼食べてません」
「なるほど」
二人は小さく笑いあってから近くの広場へ向かった。
広場の端、日当たりのいい場所に二人並んでサンドイッチを頬張る。男二人、はしゃぐような年頃でもないが、ぽつぽつと会話はある。
「……悪夢は終わっていないんじゃないだろうかと思うことがある」
「はい?」
ベルンハルトの呟きに、男は怪訝そうに眉を寄せた。食べかけのサンドイッチを見詰めながらベルンハルトは睫を震わせ、いつものような低く落ち着いた声で言葉を紡ぐが、その声は少しだけひび割れているようだった。
「“あれ”が私の可能性の蓄積なら、私が生きている限りああいったものの発生はこの先も起こりうるのではないかとか、そんなことを」
「ベルンハルト」
男がベルンハルトの言葉を遮った。
「この間も言ったと思うんですが。貴方が生きていてくれて、私は嬉しいですよ」
「……」
「私のこの『嬉しい』という気持ちは、貴方にとって無価値ですか?」
「それは、」
男はふいとそっぽを向くとサンドイッチにかぶりついた。沈黙が流れる。少しの間言葉に迷っていたベルンハルトは、真剣な表情をして男の顔を覗き込んだ。男はその黒々とした目でベルンハルトを見返してくる。
「ヒースクリフ、悪かった」
「何がです」
「君が私のことを大事に思ってくれるのは嬉しいよ。……自分で自分を諦めるようなことを考えてはいけないな」
「……わかればいんです。貴方は私……たちの道標なんですから。けして自分を、世界を、諦めないで」
「ああ。少し弱気になっていたようだ」
ありがとう、と笑うベルンハルトを男は眩しそうに見た。それからサンドイッチの最後の一欠片を飲み込み、立ち上がって膝のパンくずを払う。そこへベルンハルトが声をかけ、男は一瞬静止した。
「君はなんだかんだで優しいよな」
……貴方にだけです、と唇の動きだけで呟かれた言葉にベルンハルトが気付くことはなく、男は伸びをしてから振り返る。
「まだしばらく教会ですか」
「ああ、最近行けていなかったからな。つとめを果たさないと」
「夜までには帰ってきて下さいよ」
「わかってる」
ひらりと手を振り立ち去る男を見送ってから、ベルンハルトは教会へと戻っていった。その背を、立ち去る途中で振り返った男がじっと見ていた。